Thursday, December 06, 2007

空港にて


普通の人生を送る普通の人たちが、普通の日々の中で訪れた普通の場所で過ごした一瞬を描写した短編集。
子どものころから、人生の中で目指さなければならない最低ラインとして「普通」があった。「普通が一番」と言われるように、普通であるということは、変化に乏しくつまらない部分もあるが、概ね、80%ぐらいは安定していて、ハッピーである、という状態を指していた。普通という言葉を肯定的に使うことは、世間一般の共通認識であったように思う。リストラや、家庭崩壊や、うつ病は、本来「普通」とは縁のないものだったはずなのに、最近はどうも様子が違う。そう感じるようになったのは、自分が大人になったからだろうか、それとも時代が変わったからだろうか。
「オウムに入った連中がおれはよくわかるんだ。気力がゼロになると何か支えてくれるものが欲しくなる。何だっていいんだよ。やっとわかったんだけど、本当の支えになるものは自分自身の考え方しかない。いろんなところに行ったり、いろんな本を読んだり、音楽を聴いたりしないと自分自身の考え方は手に入らない。」
「普通の人は、一生、普通というカテゴリーに閉じ込めらて生きなければならない。そして、普通というカテゴリーにはまったく魅力がないということをほとんどの人が知ってしまった。そのせいで、これから多くの悲劇が起こると思うな。」
「相手が意思と好意でやっていることについて、どうしてそんなことをするのとかと聞くのは甘えだ。あなたが好きだからやっているんだよ、と言って欲しいからそう聞くのだ。幼児と一緒にいるとそのことがよくわかる。」



空港にて (文春文庫)